Walter Becker & Donald Fagen / You Gotta Walk It Like You Talk It
スティーリー・ダンのデビュー前のことでも書いておこう。かつては個人サイトがいくつかあって(俺もそのうちのひとつを運営していた)、それなりに彼らの歴史を知ることができたんだけど、いまじゃウィキペディアとかどこかのブログにちょっと書いてあるぐらいだからね。
ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーが出会ったのはニューヨークのバード・カレッジに在学していたころというので、60年代の終わりごろのことになる。フェイゲンがカレッジ内のミュージッククラブのそばを通りかかるとハウリン・ウルフばりのギターが聴こえてきて中を覗くとベッカーが弾いていたというのが最初の出会いだったようだ。2人はすぐに意気投合して一緒にバンドを始めて曲を書き始め、ニューヨーク内のいくつもの音楽出版社に持っていくが採用されることがなかった。
そんな中で2人の曲に目をつけたのがジェイ&ジ・アメリカンズのメンバーであったケニー・ヴァンスで、2人はジ・アメリカンズのバックメンバーとして雇われた。その一方でヴァンスは2人にデモテープを作らせている。この時の音源はスティーリー・ダンとして揺るぎない評価を得た70年代の終わりごろにヴァンスが勝手にリリースしてしまい、今も様々なタイトルでいろんなところからリリースされている。
俺も2種類ほど音源を持っているが、これはどちらも日本盤として出ているんだよね。中古で探せば容易にみつかるんじゃないかな。これ以外にも “Old Regime” とか “Sun Mountain” なんてタイトルで出ていたりするから。そういえばこんなのも出ていたね。
俺の持っている右のCDはこの記事のCDと最初の10曲が同じ。
ところで、この時期のデモ音源にはピアノだけの演奏のものとバンド演奏のものがある。ピアノ演奏だけのものはフェイゲンとベッカーがケニー・ヴァンスに出会ったことで録音したもので、バンド演奏は2人があるバンドのメンバーと出会ったことで実現したものだ。「デミアン」というバンドがキーボードとベースを募集していて、そこへ2人が連絡を取ったことがきっかけとなっている。
このデミアンというバンドには、スティーリー・ダンのオリジナル・メンバーの一人であるデニー・ダイアスがいた。そしてもう一人、キース・トーマスというヴォーカリストがいて、2人はケニー・ヴァンス同様にフェイゲンとベッカーの曲に惹かれて関りを持つようになった。さらにはジ・アメリカンズのドラマーのジョン・ディスチェポロを加えた5人で、ケニー・ヴァンスの下で録音したのが上記デモ音源ということだ。曲によってはキース・トーマスがヴォーカルを担当している。
フェイゲンとベッカーの2人はこれらデモ音源の他に、ケニー・ヴァンスのプロデュースでコメディ映画のサントラを手掛けている。それが上のジャケットの “You Gotta Walk It Like You Talk It” だ。よくB級映画だのC級だの言われているが、見たことがないのでどんな内容なのかわからなし、楽曲も正直いまいちである。8曲中フェイゲンのヴォーカルは3曲、ケニー・ヴァンスが1曲であとはインストゥルメンタル。参加メンバーはフェイゲン、ベッカー、ヴァンス、ダイアス、ディスチェポロの5人。
そして2人はこれまたケニー・ヴァンスを通して、当時すでにプロデュース業をしていたゲイリー・カッツと出会う。カッツは今でいうなら個人事業主的な立ち位置で音楽業界と関わっていたようで、後にABCレコードに入社した際に、レコード会社の上層部にフェイゲンとベッカーのデモテープを渡している。しかしレコード会社の重役たちにはウケが悪く、誰も2人の曲を採用しようとは思わなかった。
それならもう自分たちでやってしまおう、これがバンド、スティーリー・ダン結成のきっかけとなったのである。