俺がニール・ヤングを聴く以前の話、つまり10代のころのことだけど、当時俺はニール・ヤングを「単なるアメリカン・ロック」の人だと思っていた。イーグルスやジャクソン・ブラウンやそんな感じの。もっと変な言い方するなら、ごきげんなアメリカのロックをやる人だと思っていたのだ。もしくはフォーク。だけど20代になってアルバムをいろいろ聴いていくと、以前抱いていたイメージでもあるし、そうでもない、もしくはまったく違うと、いろいろな面があると思った。
その中でもとんでもねえなこれと思うのが1982年の”Trans”だろう。このアルバムではヴォコーダーを使った曲が何曲か入っていて、きっとそれまでのニール・ヤングのファンからは総スカンを食らったんじゃないかと思う。だって、それまでのニール・ヤングのアルバムの多くは、先に俺が抱いていたようなフォークやアメリカン・ロック然としたものがほとんどだったから。
01. Little Thing Called Love
02. Computer Age
03. We R in Control
04. Transformer Man
05. Computer Cowboy (aka Syscrusher)
06. Hold On to Your Love
07. Sample and Hold
08. Mr. Soul
09. Like an Inca
1曲目は従来の路線で油断させといて、2曲目から5曲目まではヴォコーダーとノイズがふんだんに盛り込まれているんだからね。きっと1982年当時にこれを聴いた人は「ディーヴォ聴いてんじゃねえぞゴラァ!」とレコード盤を叩き割ったんじゃないかと思うのですよ。
今の耳で聴いたら何が問題なのかまったく分からないと思うけど、当時は今ほどジャンルは細分化されてなかったし、その大枠の中で求めているものと全然違ったらそれはすなわち「(こんなの聴いて)失敗した」と思うようなものなのです。だからフォークやアメリカン・ロックとは全然違う、ヴォコーダーなんか使って歌っていたこのアルバムは問題作だったはずなのです、はい。
俺が若い頃に抱いていたニール・ヤングのイメージをぶっ壊してくれたのが、本人による音楽ではなく、1989年にリリースされた”The Bridge a tribute to Neil Young”というトリビュート・アルバムだったんだよね。当時のアメリカ、イギリスのインディーズで活動していたバンドたちによるカバーだったから、こういう人たちがトリビュートするってことは、俺が思っていたニール・ヤングってもっと違うのかな・・・と、そこから聴くようになったんだよね。