Nara Leao / NARA
※イマコレ=「今ごろコレ聴いてる」「今まさにコレが俺にキテル!」的なアルバムなどをピックアップして紹介します。
最近はふとしたきっかけでブラジル音楽を聴いている。以前からカエターノ・ヴェローゾやエリス・レジーナなんかも聴いていたんだけど、なぜか今個人的に再び盛り上がっているところだ。そんな中でもやたらとはまっているのがこのナラ・レオンの1964年発表のデビュー・アルバムである。ナラ・レオンというとボサ・ノヴァのイメージが強く「ボサ・ノヴァのミューズ」とも言われているが、それはもっと後の時代であって、デビューからしばらくはむしろ「反ボサ・ノヴァ」な態度をとっていたんだよね。
ナラ・レオンはかなり裕福な家に生まれて、12歳ごろにはギターを習い始め、そこからナラの家にはギターを持った人が多く出入りするようになり、ボサ・ノヴァもナラの家から生まれたなんて話も言われているぐらい。当時のブラジルの音楽はまさに新たな動きが出始めていて、それがボサ・ノヴであり、ナラもその新しい流れの中にいたのだけど、ブラジルの軍事独裁政権が始まったことでナラの関心は社会的な事柄へ向いていく。
ボサ・ノヴァのイメージとしては「太陽・海・爽やか」が思い浮かぶが、ナラは「ボサ・ノヴァは現実を歌っていない」と発言してボサ・ノヴァと決別し、プロテスト・ソングへと向かっていった。そんな時期にデビューしたわけなのでこのアルバムはボサ・ノヴァ・アルバムではない。そして全体的に陰鬱な印象を受ける。プロデューサーのアロイージオ・ヂ・オリヴェイラはボサ・ノヴァを歌わないナラにやきもきし、この頃にセルジオ・メンデスと共に来日(もちろんまだ無名だろう)したものの、レパートリーについてセルジオ・メンデスと相当もめたなんて話もある。
要は「ボサ・ノヴァなんて軟弱すぎてやってられないわ!」ってことだったんだろうね。きっとみんながワイワイ集まって新しい音楽だなんて言ってるけど、歌っていることはお気楽すぎて、もっと情勢に目を向けろよって思ってたのだろう。彼女の初期のアルバムは他には3rdアルバムしか持っていないが、ディスコグラフィを見るとジャケットやタイトルから反ボサ・ノヴァってのが感じられる。それで自然とMPBのミュージシャンと行動するようになり、その言動からブラジル当局に目をつけられ、しまいにはカエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジルと共にパリへ亡命するはめになるんだよね。
もしナラ・レオンを聴いてみようとして、ボサ・ノヴァのイメージを抱いているならこのアルバムは避けた方がよい。でも俺はこのアルバムとても好きで、ここんとこは1日に2回ぐらい聴いているような気がする。上で書いたようなちょっと反社会的な態度で言いたいことを言ってる、尖がった部分が見え隠れするところが良いんだよね。ちょっと他のアルバムも欲しいんだけど、簡単に手に入らないのがまたね・・。