KIRINJIの新譜『crepuscular』

KIRINJI / crepuscular

KIRINJI / crepuscular

KIRINJIが堀込高樹のソロ・プロジェクトとなって最初となるアルバム『crepuscular(クリパスキュラー)』がリリースされた。バンド編成が終わって、シングル「再会」と、映画『鳩の撃退法』の主題歌である「爆ぜる心臓(feat. Awich)」のリリースがあったが、正直俺は不安だった。

それというのも、「再会」はいつものKIRINJIらしいメロディのポップ・ソングではあったけど、こじんまりとしていて何か物足りないと思ったし、「爆ぜる心臓」に至っては映画の主題歌とはいえ、まったく刺さらなかったからだ。

  1. ただの風邪
  2. 再会
  3. first call
  4. 薄明(feat. Maika Loubte)
  5. 曖昧me
  6. 気化猫
  7. ブロッコロロマネスコ
  8. 爆ぜる心臓(feat. Awich)
  9. 知らない人

しかしいざアルバムとなったらそれはまったくの杞憂で、クオリティの高さは相変わらずだなと思ったし、何よりも堀込高樹のいくつかのインタビューを読んでむしろ納得することが多かった。

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このインタビューで彼は言ってるが、コロナ禍のいまを反映したアルバムを意識したそうだ。特に俺が共感できるのが以下の部分。

みんなどういう気持ちで作ってるのかなと思いますね。僕はやっぱり常にそのことが頭にあるので。それ以外のものを作るというのはできなかった。猫の歌を歌ってるけどなんか寂寥感が出たりするしね。そういうのが自分でも不思議とコロナっぽいんですよ。

※上記インタビューより

コロナ禍となって、どこへ行ってもマスクをするし、飲食店は早く閉まってしまうし、緊急事態宣言とかでどこか塞ぎこんでしまいたくなるような気分、それがアルバムの雰囲気を成しているということなのだろう。アッパーな曲も入れる気にはなれなくて、ミドルテンポ以下の曲が並んでいるということなのだろう。

余談だけど、俺自身もコロナ禍になってからの1年半、音楽以外の趣味である「山」にすっかり行かなくなってしまって、先日1年数か月ぶりに登ってきたのだけど、これもまさに「そういう気分になれない自分」がいたからで、堀込高樹も別のインタビューで「世の中の気分。自分の気分。」と話しているのを読んでなるほどと思ったわけだ。

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アルバムだが、9曲38分とこれまでのKIRINJI(キリンジ時代含む)の中ではもっともコンパクトなものとなっていて、一聴すると物足りなさを感じるものの、何度も繰り返し聴いたらそんなことはどうでもよくなる。

1曲目は、お、あいつらを揶揄しているのかと思いたくなる「ただの風邪」。しかし本人曰く、本当にただの風邪だったという内容で、確かにコロナ禍になってから具合がわるいと「もしかして・・・」と不安になったりするが、結局は何でもない単なる風邪だったなんてことはあるだろう。

2曲目「再会」は単品で聴いた時は物足りなさがあったが、アルバムに入るとやっぱりキャッチーでいつものKIRINJIだなと思わせる曲で、そういえば先行してリリースされる曲は毎回そんな思いをしているけど、アルバムに入ると輝いて聴こえるのは、KIRINJIはシングルではなくアルバムで聴くべきなんだなと思わせる。

3曲目「first call」はアルバム中もっともキャッチーで軽快な曲。「最高、最高、最高」と3回繰り返す部分がとても良い。この部分についてはこんな記事がある。

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お笑い芸人の空気階段がパーソナリティを務めるラジオ番組「空気階段の踊り場」のコーナー内に、水川かたまりが2021年に流行らせたいギャグ〈サイコゥ! サイコゥ! サイコゥ!〉をリスナーから送られてきた〈最高なこと〉に合わせて叫ぶというものがあるのだが、それを堀込高樹がサンプリングしたんじゃないかとふと感じた。勝手な憶測だが、万が一の時のために一応書いておく。堀込高樹も〈サイコゥ! サイコゥ! サイコゥ!〉を流行らせようとしてくれているのかもしれない。

この曲には「闇落ち」とか「陰謀論」なんて言葉も出てきて、時代を映しているなと感じてしまう。

4曲目「薄明(feat. Maika Loubte)」はマイカ・ルブテをフィーチャーした曲で、ここで聴くまでこの人のことはまったく知らなかった。最近はKIRINJIを通して最近の曲やミュージシャンを知ることが多い。この曲自体はヨーロッパっぽいメロディーがとか、そんなことを騙っているようだけど、俺の聴きこみが足りなくてそこまで言及できない。だけど良い曲ではある。

5曲目「曖昧me」、これは本人も言ってるようにMPB(ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック)っぽいイントロに持っていかれる。コロナ禍で時間の間隔がよくわからないといったことを歌っているのと、40、50過ぎると自分の年齢も曖昧になってくるといったことが歌われていて頷ける。

6曲目「気化猫」は「ネンネコ」以来のねこソング。ねこは液体とネットでよく言われているのをうまく使って、液体なら蒸発してもいいだろうという発想。ゆったりとした曲調が歌の内容によくあっている。

7曲目「ブロッコロロマネスコ」はマリンバをフィーチャーしたインストゥルメンタルで、先のインタビュー記事でも言われているように、曲名も含めてフランク・ザッパっぽさがある。この曲はさりげなく収録されているように聞こえるが、次の「爆ぜる心臓(feat. Awich)」への繋ぎとしてとても重要な曲だ。

8曲目「爆ぜる心臓(feat. Awich)」は初めて聴いた時から、この曲はアルバムに入るのかなと思っていて、入っていると知ったときに、この曲は浮くんじゃないかと思っていたのだが、それを前曲とうまく結びつけることで違和感を無くているんだよね。

9曲目「知らない人」はピアノだけの、いかにもラストですと言わんばかりの曲。激しい曲のあとのアウトロという役割もあって、後半3曲の流れは上手いなと思った。

以上が、アルバム『crepuscular』についての感想でした。

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