『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』ディスク2(その1)

The Beatles / Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band

“Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band”のスーパー・デラックス・エディションのディスク2はアウトテイク集。まずは曲目から。

CD 2 / Sgt. Pepper Sessions
01. Strawberry Fields Forever – Take 1
02. Strawberry Fields Forever – Take 4
03. Strawberry Fields Forever – Take 7
04. Strawberry Fields Forever – Take 26
05. Strawberry Fields Forever – Stereo/Giles Martin Mix 2015
06. When I’m Sixty-Four
07. Penny Lane – Take 6
08. Penny Lane – Vocal Overdubs and Speech
09. Penny Lane – Stereo / Giles Martin Mix 2017
10. A Day In The Lif e- Take 1
11. A Day In The Life – Take 2
12. A Day In The Life – Orchestra Overdub
13. A Day In The Life – Hummed Last Chord
14. A Day In The Life – The Last Chord
15. Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band – Take 1
16. Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band – Take 9
17. Good Morning Good Morning – Take 1
18. Good Morning Good Morning – Take 8

『サージェント・ペパーズ』のレコーディングは、アルバムには収録されずシングルでリリースされた”Strawberry Fields Forever”のレコーディングから始まった。このディスクではその「ストロベリー・フィールズ」の完成にいたるまでの4テイクが収録されている。ちょっと詳しく書こうか。

テイク1:1966年11月24日

この年の8月にアルバム”Revolver”をリリースした後は、メンバーが個々の活動をしていて11月に集結。最初に始めたセッションがこのテイク1のようだ。聴けばわかるが、正規にリリースされたバージョンとは大幅に違う。まだおとなしい感じがするし、この後どんどん曲は変な風になっていくわけで、ジョンのドラッグによる影響なんだろうね。

この日はテイク1だけを録音しておしまい。

テイク4:1966年11月28日

この日はテイク2からテイク4を録音し、テイク3は失敗。残りのテイクにはオーバーダブを施したらしい。この時点でベストに選ばれたのがテイク4ってこと。

テイク7:1966年11月29日

テイク5と6を録音、ヴォーカルはないリズムトラックだそうだ。テイク5は失敗バージョンなのでテイク6をミックスダウンしてテイク7にして、ジョンの実験的なヴォーカルをオーバーダブだって。このテイク7がベストとして残されたそうな。

テイク26:1966年12月15日

テイク7から2週間ぐらい経っているが、まず12月8日にテイク9からテイク24までを録音(ただしテイク8とテイク19は存在していないらしい)。ジョージ・マーティンがテイク15と24を編集してテイク25を作ったのが12月9日のこと。

そして12月15日にはジョージ・マーティンのスコアによるトランペット4台とチェロ3台がテイク25にオーバーダブされる。この時点で4トラックのテープがいっぱいになり、別のテープにトラックダウンしてそれをテイク26としたようだ。

そしてジョンのヴォーカルも入れられるが、ここで正規盤のいちばん最後で聴ける「クランベリーソース(cranberry source)」というつぶやきが入る。正規盤では1回だけ聴こえるけど、実際は2回言ってるんだよね。この時点で11月24日に録音したテイク1とはかなりかけ離れたバージョンになっているのは聴けばわかるだろう。

完成版

ここまでのレコーディングを経た12月22日、ジョンはジョージ・マーティンに「最初のテイクとスコアを付けたヘヴィなやつもいい、どちらも捨てがたいから始めの部分に最初のテイクを使って途中からヘヴィなのをくっつけて」とか言い出したんだね。それに対してマーティンはこう答えたそうだ「キーもテンポも違うから無理だ」と。するとジョンは「君ならできるだろ」と言ったそうで、これにはジョージ・マーティンも頭を抱えたそうだ。

今ならPCでもスマホでも曲のテンポを変えることなんてできるけど、1966年当時にはそんな技術はない。テープは一定の回転で回るものというのが当たり前だったからね。

それでも実現できるか試そうってんだから凄いよね、ジョンが要求したのはテイク7の前半部分とテイク26をくっつけるというもので、この2曲を聴いたなら分かると思うけど、ジョージ・マーティンの言うようにキーもテンポも違うわけですよ。マーティンはエンジニアのジェフ・エマリックと両者を聴き比べて、半音の差があることを調べ、テイク7のテープ速度をちょっと上げて、テイク26の速度をちょっと下げるとキーが同じになることに気がついたんだよ。

こうして完成したのが正規で聴いている”Strawberry Fields Forever”なんだよね。編集が凄すぎてどこまでがテイク7でどこからがテイク26を使っているのかなんて、普通に聴いていたらわからない。曲の開始からちょうど1分のところ “Let me take you down”の直後からがテイク26なんだけど、これを踏まえてこのディスクに収録された4つのテイクと正規盤を聴くととても面白い。そういう意図でこのディスクには収録されているんだろうね。

因みに、なぜレコーディングのことを知っているかと言うと、この本に書いてあるからです。

ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ完全版

ザ・ビートルズ・レコ―ディング・セッションズ完全版

この本は、”Love Me Do”から、最後の”I Me Mine”までのレコーディングの記録が書かれていて、上に書いたように日付ごとに、何の曲を何テイク録音したという事実と、その時の関係者の証言などが書かれているので、ビートルズ・マニアの入口として絶対に押さえておくべき本なんだよね。

俺が持っているのはこの本の初版で「完全版」ではないので、完全版は何が違うのかよくわからない。俺がもっているのは「ゲット・バック・セッション」がちょっと薄いなって感じだけど、それでも十分に読みごたえがあるので、オススメですよ。今回の『サージェント・ペパーズ』のところも興味深い話は多いしね。

なんだか「ストロベリー・フィールズ」だけで文字数使ってしまった。このディスク2では「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」にも触れておきたいからまた次回にでも。

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