ポール・マッカートニー 「タッグ・オブ・ウォー」(デラックス・エディション)

Paul McCartney / Tug Of War
Paul McCartney / Tug Of War

「ポール・マッカートニー・アーカイヴ・コレクション」と題した再発シリーズ、今回は個人的にはポールの最高傑作と思っている1982年作の『タッグ・オブ・ウォー』、そして1983年の『パイプス・オブ・ピース』の2枚がリリースされた。ここでは前者のアルバムを取り上げたいと思う。

『タッグ・オブ・ウォー』はポールのアルバムの中で、その活動を変えざるを得ないものになった。1980年12月に、ロンドンのAIRスタジオでレコーディングを始めたのだが、この時点ではウイングスとしてのアルバムを想定していたと思う。デニー・レインも参加しているし、その後はツアーにも出ようとしていた。プロデューサーにジョージ・マーティンを呼んだのも、グループの立て直しを図っていたからだと言われている。レコーディング・セッションのさなか、ある事件が起こってしまう。そう、ジョン・レノンが銃弾に倒れて亡くなってしまったことだ。そのショックでポールはしばらくレコーディングを止めてしまった。

かつての(ビートルズ時代の)パートナーでもあり、ライバルであったジョンの死がポールにどれだけのショックを与えたかは想像に難くない。

翌年の1981年2月、モントセラトにあるジョージ・マーティンのスタジオでレコーディングを再開。3月にはロンドンに戻りレコーディングを続けるものの、ジョンの一件で人前に出ることを躊躇したポールはツアーにも消極的になり、1981年4月下旬にデニー・レインがウイングス脱退を宣言。これでレコーディングはポールのソロ・アルバムとなる。レコーディングにスタンリー・クラークやスティーヴ・ガッドを呼んだのはジョージ・マーティンの計らいだと思う、ポールがジョンのことで落ち込まないようにとか、気分を変えるためにとかそんな感じで。

この年のセッションで20曲ほどがレコーディングされ、そこから厳選された12曲が収録された。当初は1981年10月のリリースを予定していたが、レコーディングが完了せず翌年の2月に延期とされた。しかし今度はアルバムジャケットの問題でさらに延期されて1982年4月26日にリリースされた。その1か月前にはシングルとして、スティーヴィー・ワンダーとのデュエット曲「エボニー・アンド・アイボリー」がリリースされていた。残りの曲は翌年にリリースされた『パイプス・オブ・ピース』に収録された。

Tug Of War
Disc1 – Remixed Album
01. Tug Of War
02. Take It Away
03. Somebody Who Cares
04. What’s That You’re Doing?
05. Here Today
06. Ballroom Dancing
07. The Pound Is Sinking
08. Wanderlust
09. Get It
10. Be What You See (Link)
11. Dress Me Up As A Robber
12. Ebony And Ivory

ディスク1は従来の『タッグ・オブ・ウォー』をリミックスしたもの。リマスターじゃないところが注意点。リマスターは4枚組のスーパー・デラックス・エディションに収録されているんだよね。だから最初聴いた時に、以前とどことなく印象が違ったわけだ。それを差し置いても、今さらいうまでもない完璧な楽曲の数々。俺は思うんですよ、ポールのもったいないところは、彼は才能の6割とか7割も使えば人並み以上の曲が作れちゃうから、アルバムの完成度がどれも同じようなレベルになってしまっている(俺が聴いたことがある範囲での判断)。ウイングスだってそう思うことがしばしばある。だけどこの『タッグ・オブ・ウォー』は9割10割出し切っている、本気で作ったアルバムだと。そこには少なからずジョンの死も影響していると思うが、ジョージ・マーティンとのビートルズ以降の仕事としては文句のない出来。そう、ジョージ・マーティンがプロデュースってところも大きい。ポール自身のプロデュースだったらここまでコントロールできなかっただろう。

Disc2 – Bonus Audio
01. Stop, You Don’t Know Where She Came From
02. Wanderlust (demo)
03. Ballroom Dancing (demo)
04. Take It Away (demo)
05. The Pound Is Sinking (demo)
06. Something That Didn’t Happen (demo)
07. Ebony And Ivory (demo)
08. Dress Me Up As A Robber/Robber Riff (demo)
09. Ebony And Ivory (solo version)
10. Rainclouds
11. I’ll Give You A Ring

今回のデラックス・エディションのボーナス・ディスクには当時のデモ音源が中心に収録されているが、これらを聴いて驚いたのが、05と06を合せて「ザ・パウンド・イズ・シンキング」という曲になったことが分かることだ。ポールは複数の曲をくっつけることで1曲にすることをよくやるが、この曲もそうだったんだなと知った次第。そして、ジョンが亡くなった日にレコーディングしたのが10で「エボニー・アンド・アイボリー」のB面曲だった。さらに11は「テイク・イット・アウェイ」のB面曲だったそうだ。この2曲は今までCDに収録されていなかったらしい。

改めて聴いてみて、やはり良いアルバムだし、昔から思っていたポールの最高傑作という思いは変わらなかった(むしろ今の方がそういう思いが強くなったけど)。このアルバムも、『パイプス・オブ・ピース』もリアルタイムで聴いているが、ビートルズが60年代だったのに、80年代になってもヒットを飛ばしているポールを、当時の俺はすげえと思っていた。残念なのはこの時期にはライヴを行っていないので、これらの曲の多くはライヴで披露されていないことだ。今となってはこのアルバムはある意味孤高の存在かもしれない。

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