さて、ビートルズの”The U.S. Albums”のことです。すでにいろいろな人があちこちで書かれていますが、今回のアメリカ盤、中の音源については当時のアナログの内容がそのまま再現されているものではありません。
基本的には、アメリカ盤独自のテイクはそれを採用しているが(一部例外あり)、それ以外の曲は2009年のリマスターを使用していて、その影響を受けて当時疑似ステレオだったものが無くなってしまったり、”The Beatles Second Album”のステレオ盤にあった独特のエコーも無い。まあその辺のテイク違いや差し替わった曲について細かく書くことはしませんので、他の方のブログなどをググってみてください。
アメリカではキャピトル・レコードが独自の編集によって、本国イギリス盤とは内容のまったく違うアルバムをリリースし、一体イギリス盤とどう関係があるのか分からなくなってしまいそうなので下記のような時系列での表にしてみた。
こうして見ると、アメリカでのリリース枚数がやたらと多いことに気が付く。じゃあ何でこんなに数が違うのかをこれから書いていこうと思う。
ビートルズは1963年にイギリスではEMI傘下のパーロフォンから最初のアルバム”Please Please Me”をリリース。EMIは資本提携をしているアメリカのキャピトルにこのグループを売り込むが、「魅力がない」という理由で1963年の時点では断られている。そこでマネージャーのブライアン・エプスタインはVee Jayというマイナー・レーベルと契約し、”Intorducing The Beatles”というアルバムをリリースしている。”Please Please Me”からタイトル曲と”Ask Me Why”の2曲を抜いた12曲入り。当時のアメリカではLPは12曲入りというのが通例であった(イギリスでは14曲)。
しかしアメリカではジワジワとビートルズの人気が高まり、キャピトル・レコードも黙っているわけにはいかず遂に契約をし、1964年1月に”Meet The Beatles”をリリース。
Meet The Beatles
01. I Want To Hold Your Hand
02. I Saw Her Standing There
03. This Boy
04. It Won’t Be Wrong
05. All I’ve Got To Do
06. All My Loving
07. Don’t Bother Me
08. Little Child
09. Till There Was You
10. Hold Me Tight
11. I Wanna Be Your Man
12. Not A Second Time
13-24. 上記のステレオ・バージョン
このアルバムはシングルとしてリリースされていた01、02、03と、イギリスでリリースされた”With The Beatles”からの9曲で構成されている。ジャケットも同じ写真を使用していますね。イギリスではシングルとアルバムは別という概念があったのに対し、キャピトルはアルバムを「シングル曲を含む」という構成だったのでやはり内容が異なってくる。そしてキャピトルはこのアルバムから早くも3か月後には”The Beatles Second Album”をリリースしている。
The Beatles Second Album
01. Roll Over Beethoven
02. Thank You Girl
03. You Really Got A Hold On Me
04. Devil In Her Heart
05. Money
06. You Can’t Do That
07. Long Tall Sally
08. I Call Your Name
09. Please Mister Postman
10. I’ll Get You
11. She Loves You
12-22. 上記のステレオ・バージョン
前作には未収録だった”With The Beatles”の残りの曲(01、03、04、05、09)と、シングルでリリースされた曲(02、06、10、11)、そして本家イギリスでもこの時点でリリースされていない07、08の11曲で構成されている。もうこの時点でイギリスではアルバム1枚だったものからシングル曲を集めて2枚のアルバムに分割してしまうというキャピトルの手法がわかりますねw
一方、ビートルズは映画『ア・ハード・デイズ・ナイト』を撮影していて、ユナイテッド・アーチスツと契約していたために、サントラ盤は同社からのリリースとなった。1964年6月のこと。
A Hard Day’s Night
01. A Hard Day’s Night
02. Tell Me Why
03. I Cry Instead
04. I Should Have Known Better(inst)
05. I’m Happy Just To Dance With You
06. And I Love Her(inst)
07. I Should Have Known Better
08. If I Fell
09. And I Love Her
10. Ringo’s Theme(This Boy)(inst)
11. Can’t Buy Me Love
12. A Hard Day’s Night(inst)
13-24. 上記のステレオ・バージョン
イギリス盤では同名のアルバムが1か月遅れてリリースされるが、大きな違いは、このアメリカ盤にはオーケストラによるインストゥルメンタル曲が入っていること。その他の曲はイギリスでは1か月後に出た同名のアルバムにすべて収録されている。今回初めて聴いたのだが、インストゥルメンタル曲が時代を感じさせてくれてなかなか良かった。でもビートルズのアルバムとして聴くと物足りなさがあったかな。一方同じ頃にはキャピトルから早くも次のアルバムがリリースされている。
Something New
01. I’ll Cry Instead
02. Things We Said Today
03. Amy Time At All
04. When I Get Home
05. Slow Down
06. Matchbox
07. Tell Me Why
08. And I Love Her
09. I’m Happy Just To Dance With You
10. If I Fell
11. Komm, Gib Mir Deine Hand
12-22. 上記のステレオ・バージョン
ここにも”A Hard Day’s Night”から7曲(01~04、07~10)が収録され、他にはシングル(05、06)、そしてなぜか「抱きしめたい」のドイツ語版(11)まで入っている。余談ですが、ドイツ語版といえば他に「シー・ラヴズ・ユー」もあって、アメリカでは当時はリリースされず、後の編集盤”Rarities”が初お目見えとなっているようだ。キャピトルは商魂たくましく、売れるうちにどんどん売っていこうというつもりなのか、しまいには曲以外のものまでレコードとしてリリースしていた。それが”The Beatles’ Story”というアルバムだ。
The Beatles’ Story
01. On Stage With The Beatles
02. How Beatlemania Began
03. Beatlemania In Action
04. Man Behind The Beatles – Brian Epstein
05. John Lennon
06. Who’s Millionaire?
07. Beatles Will Be Beatles
08. Man Behind The Music – George Martin
09. George Harrison
10. A Hard Day’s Night – Their First Movie
11. Paul McCartney
12. Sneaky Haircuts And More About Paul
13. The Beatles Look At Life
14. “Victims” of Beatlemania
15. Beatle Medley
16. Ringo Starr
17. Liverpool And All The World!
このアルバムは、ビートルズの4人とジョージ・マーティン、ブライアン・エプスタインへのインタビューを含んだドキュメント作品で、ほとんどは関係ないナレーターがしゃべっている代物。曲もほんのちょっとだけなんだけど、”Twist And Shout”のハリウッド・ボウルでのライヴ音源がほんの少し入っていたり、既発曲のメドレーがあったりはするが、何度も聴くものではないだろう。これ、『ビートルズ物語』という邦題で日本盤もあったけど、LP2枚組だったため4600円もした。
イギリスでは1964年12月に”Beatles For Sale”をリリース。そしてキャピトルもすぐに以下のアルバムをリリースした。
Beatles ’65
01. No Reply
02. I’m A Loser
03. Baby’s In Black
04. Rock And Roll Music
05. I’ll Follow The Sun
06. Mr. Moonlight
07. Honey Don’t
08. I’ll Be Back
09. She’s A Woman
10. I Feel Fine
11. Everybody’s Trying To Be My Baby
12-22. 上記のステレオ・バージョン
8曲は”Beatles For Sale”の収録曲(01~07、11)で、”A Hard Day’s Night”から1曲(08)、そしてシングルを2曲(09、10)で構成されている。前半6曲なんて”For Sale”と同じ曲順で、もうそのままイギリスと同じのを出せば良かったのにと思ってしまう。”She’s A Woman”と”I Feel Fine”の2曲はイギリス盤シングルと違って、深いエコーがかかっている。これは2009年マスターに差し替えられずに、当時のままの音源が入っているから良かった。
さて、お気づきかと思うけど、ここまでに挙げてきた6枚のアルバムはすべて1964年にリリースされている。イギリスでは3枚だったアルバムを5枚に分割しているわけですよ、すごいと思いませんか?なぜキャピトル・レコードはこんな乱発ができたんですかね。前にレココレだったと思うけど、当時はアメリカの音楽業界の方が力を持っていたなんてことが書かれていたけど、きっとそういうことなんでしょうね。ここまで内容もジャケットも違うアルバムが出ていたなんて、今では考えられないことです。
続きは次回に。