
Starchild & The New Romanticが2025年3月にリリースしたアルバム『Beauty of a Black Cauldron, Vol.1 & 2』、これがとても良くて最近やたらとリピートしている。1年も前にリリースされていたのに全然気がつかなかったし、調べてみたらフィジカルでのリリースはされていないようだ。
Starchild & The New Romanticとは

ブリンドン・クック
Starchild & The New Romanticはブリンドン・クック(Bryndon Cook)によるソロ・プロジェクトである。彼は1992年(93年説もあり)にアメリカ、メリーランド州で生まれ10代をアトランタで過ごす。その頃にギターを独学で習得し、プリンスやシャーデー、ジョージ・クリントンに多大なる影響を受けたそうだ。
この「Starchild & The New Romantic」という名称、「Starchild」はパーラメントのアルバム『マザーシップ・コネクション』に登場するキャラクター「スター・チャイルド」からとっている。そして「The New Romantic」は80年代のデュラン・デュランやスパンダー・バレエなどのニュー・ロマンティック・ムーヴメントを指しいていて、ブリンドン曰く「黒人音楽の歴史 × 80 年代のロマンティック感性」をミックスした音楽を目指して名付けたとのこと。
俺は一応この名前を知っていて、それは2018年にリリースされた1stアルバム『Language』がリリースされた頃にTwitterのフォロワーさんから紹介してもらって聴いていた。その時はプリンスの影響下にあるミュージシャンといった認識で、確かにそれっぽいなんてちょっとした盛り上がりはあったものの、その時はそれぐらいで終わってしまった。
しかしあれから7年で3枚のアルバムを出しているということは、継続的に活動をしているわけで、単なる「プリンスのフォロワー」みたいな見方で片づけてしまってはブリンドン・クックの本質を見落としているのではないかと思い、彼のキャリアを探ってみた。
プロ・ミュージシャンになる転機となったデヴ・ハインズとソランジュとの仕事
ブリンドンは大学生の頃に、自主制作で音源を作成してSoundCloudにアップロードしたりしていたが、それはあくまでもアマチュアとしての活動だった。
そんなある日、すでにブラッド・オレンジ(Blood Orange)として活動していたデヴ・ハインズ(Dev Hynes)がTwitterでメールアドレスを公開していたのを見て、彼はデモ音源を送った。それがきっかけとなり、1年後(2012年頃)にはデヴから声がかかり、Blood Orange の曲でラップで参加する機会を得た。

デヴ・ハインズ
そして彼にとってさらなる転機が訪れる。ビヨンセの妹であるソランジュ(Solange)のツアーにギタリスト/バックアップシンガーとして参加。これはデヴ・ハインズがかつてソランジュのツアーメンバーだったが、そのあとを引き継ぐ形での参加となった。
2016年にはブラッド・オレンジのアルバム『Freetown Sound』、ソランジュのアルバム『A Seat at the Table』への参加。2017年にはデヴ・ハインズとのユニット、VeilHymnによる曲のリリース(「Hymn」1曲のみ)、そしてこの年のソランジュのツアーではバンドリーダーとミュージックディレクターとして参加している。
特にソランジュのライヴでは、ブリンドンはバンドメンバーの動きの統制まで行い、ソランジュの音楽的ビジョンとステージ上の世界観を、演奏面から具体的な形へと落とし込む重要な役割を担っていた。映像はその時のライヴの模様で、ギターで参加しているのがブリンドンである。
ソロキャリアについて
ブラッド・オレンジやソランジュのサポートを経て、ブリンドンはいよいよ2018年にStarchild & The New Romantic名義での1stアルバム『Language』をリリース。タイトルは単なる言葉ではなく、距離やすれ違いの中で感情をどう伝えるかという点がテーマとなっている。

Language
本作は、ブリンドンが「クィア」であることも含めて語られることが多い。海外のインタビューでも、彼が自身のアイデンティティを前提にポップ・ミュージックを制作していることが紹介されている。クィアであることを声高に主張するのではなく、その立場から自然にラヴソングを紡いでいる点が評価されている。
ここで言うクィアとは、単なる性的指向ではなく、男性らしさの固定的なイメージに寄りかからず、弱さや繊細さ、装飾性をそのまま肯定する姿勢を指す。ファルセットやロマンティックな響きを通じて、従来の“男らしさ”に収まらない感情表現が提示されている点に共通するものがある。
以前聴いた際に感じたプリンスのフォロワー的な印象も、そうした部分があてはまるのかもしれない。プリンスのような挑発性とは違い、より内省的で繊細な方向へと向かっているのが特徴である。
2020年には2ndアルバム『Forever』をリリース。1stのロマンティックなR&B路線を引き継ぎつつ、親密なメロディやファルセットはそのままに、全体の構築は落ち着きを帯びていると思う。

Forever
そして2025年の『Beauty of a Black Cauldron Vol. 1&2』では、より実験的な方向へと踏み込んでいる。ポップ・ソングとしての明快な展開よりも、ムードが持続する構成が目立つ。クィア性は引き続き前提としてあるのだろうけど、より身体的な感覚として音楽の中に溶け込んでいるかのようで、冒頭にも書いたけど本当に良いアルバムだ。
まとめ
中性的なR&Bを出発点にしながら、実験性を強めていくその歩みは、近年のオルタナティブR&Bの流れとも重なる。ブリンドンのこれまでの歩みを踏まえ、さらにはデヴ・ハインズやソランジュとの仕事を経て培われた感覚が、現在の音楽へとつながっているのだろう。
昨今はSNSで瞬間的に消費されてしまうし、彼のように特に有名なヒット曲があるわけではないとなると、話題に挙がるのが限定的になってしまうので、なかなか情報が入ってこない。なので自分もあまり深追いしてこなかったが、これまで点と点で情報があったものの、調べてみてそれが線となって繋がるといろいろ面白いなと思った。今後もチェックしていきたい1人である。

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