ビートルズの『ホワイト・アルバム』に収録されている”Helter Skelter”には27分に及ぶバージョンが存在するらしい。「らしい」と書いたのは、記述のみの情報であり、誰も音を聴いたことがないからだ。これはポール・マッカートニーがプライベート・コレクションとして保管していると、上の写真の本「ザ・コンプリート・ビートルズ・レコーディング・セッションズ」に書かれている(この本、今は内容も追加されて再発売されている)。
27分バージョンの”Helter Skelter”は、90年代のアンソロジー・プロジェクトの際にも発表が期待されていたが、ジョージ・マーティンが収録しなかった理由として「たぶん退屈だと思うから」と言ったとか言わなかったとか、そんなことをどこかで読んだんだけど、代わりに『アンソロジー3』には同曲のテイク2が編集されて収録されている。これを聴くと、マーティンの言ったといわれている言葉も納得がいく。
“Helter Skelter”は1968年7月18日に3テイクが録音されていて、テイク1が10分40秒、テイク2が12分35秒、そしてテイク3が27分11秒もあるのだが、この3テイクは『ホワイト・アルバム』収録バージョンとは違ってスローなブルースっぽい曲となっている。そしてテイク2を4分台に編集されたものが『アンソロジー3』に収録されている。一方、『ホワイト・アルバム』に収録されているバージョンは、1968年9月9日に第4テイクから第21テイクが録音されていて、「ザ・コンプリート・ビートルズ・レコーディング・セッションズ」によるとこの時のレコーディングはこんな感じだったそうだ。
あらゆる類の楽器が乱暴にプレイされた。(中略)ジョンがベースを弾き、事もあろうに救いがたいほど下手クソなサックスを吹き、マル・エヴァンスも同様に素人くさいトランペットを披露する。それに2通りのリード・ギター、へヴィなドラムス、ピアノ、全編を覆い尽くすディストーションやフィードバック・・・
(「ザ・コンプリート・ビートルズ・レコーディング・セッションズ」192ページより抜粋)
これを読んでも分かる通り、アルバム・バージョンの”Helter Skelter”は9月9日のセッションがもとになっていることで間違いないだろう。以前は27分バージョンはこの狂気じみたセッションが延々と続けられて、ノイジーなとんでもないものなんじゃないかと期待していたのだけど、よくよく聴きなおして、本を読み直してみると、27分バージョンは『アンソロジー3』に収録されているテイク2と大して変わらないものだろうと考えるようになった。そうなると、先のジョージ・マーティンが言ったといわれている「退屈だと思う」もあながち言い得ているのだろうなと。それでも聴いてみたいことには変わりはないが、派手な展開を期待しないほうがいいだろうと思った次第である。