この「いたち野郎」め!

  1. The Mothers of Invention
    The Mothers of Invention / Weasels Ripped My Flesh (Left), Burnt Weeny Sandwich (Right)

フランク・ザッパがデビューした当時に結成していたのがザ・マザーズ・オブ・インヴェンション(以下、マザーズと表記する)。フランク・ザッパのいわゆる「名盤」としてマザーズのアルバムもいくつかしばしば取り上げられるが、どれもアクの強い、聴く人を選ぶタイプのものばかりだ。とりわけ邦題があまりにも強烈で有名な『いたち野郎(原題:”Weasels Ripped My Flesh”)』は、そのタイトルやジャケに惹かれて初めて聴くザッパがこれになろうものなら・・・、あなたは二度とザッパの音楽を聴くことがないだろう。

実際こんな例がある。20年ほど前、当時つきあってた女に聴かせたらものすごく嫌な顔をされ、それ以降はジャケットを見るだけであからさまな嫌悪を示した。また、他には友人にザッパを聴いてみたいと言われて、とりあえず5枚ほど選んだ中にこのアルバムを入れたら「二度と聴きたくない」と言われたし、さらには別の友人にも「勘弁してくれ」と拒否られた。そう、全部俺が体験したことで、そもそもこのアルバムを出してくるというのが間違いなのは分かっているけどね。

いたち野郎(Weasels Ripped My Flesh) / ザ・マザーズ・オブ・インヴェンション
01. Didja Get Any Onya?
02. Directly from My Heart to You
03. Prelude to the Afternoon of a Sexually Aroused Gas Mask
04. Toads of the Short Forest
05. Get a Little
06. Eric Dolphy Memorial Barbecue
07. Dwarf Nebula Processional March & Dwarf Nebula
08. My Guitar Wants to Kill Your Mama
09. Oh No
10. The Orange County Lumber Truck
11. Weasels Ripped My Flesh

『いたち野郎』はマザーズがすでに解散してから出された「未発表曲集」的な位置づけにあるアルバムで、1970年にリリースされた。収録されている曲の多くをライヴ音源から持ってきていて、ザッパが言うところの「テープ編集も作曲行為の一部だ」を実践すべく、必要に応じてスタジオでの録音をオーバーダブしたり、スタジオ録音とライヴを見事に繋げるなど、とても高いクオリティに仕上げている。しかし、その収録曲が一筋縄ではいかないんだよな。1曲目の”Didja Get Any Onya?(ディジャ・ゲット・エニイ・オンヤ)”の勢いのある演奏に一気に引き込まれていくけど、すぐにこれはローウェル・ジョージ(後にリトル・フィートを結成)の「もあ~、もあぁ~」という発声に脱力するし、さらに演奏が進んだ後の「でぃーじゃぁぁぁ、げーにーぃぃぃ、おんにゃおんにゃおんにゃ・・・」ってヴォーカル(?)にもヤバさを感じる。特にアルバムの前半は前衛的な側面が強くて、そういうのに慣れている人じゃないと絶対に途中でストップボタンを押してしまうんじゃないかと思われる。

その後も奇声を発している曲や、複雑な展開の曲が続いてある種の試練を強いられるアルバムではあるが、そこをどうにか超えるととても素晴らしい展開が待っている。まず8曲目”My Guitar Wants to Kill Your Mama(ギターでおふくろを殺してやりてえ)”のカッコよさ、そして”Oh No”と”The Orange County Lumber Track”の流れは秀逸過ぎる。前者はスタジオ録音で後者はライヴ録音(後に『アヘッド・オブ・ゼア・タイム』というアルバムでその時のライヴがリリースされている)で、この2曲の流れが信じられないぐらい美しい。さらにラストのタイトル曲は、マザーズ全員で楽器を最大限に鳴らしているだけのノイズ。これらの後半部分のためだけにこのアルバムを買っても良いぐらい。

しかし、フランク・ザッパを聴いてみようと思って最初に聴くべきアルバムではない。もしマザーズ時代のアルバムを聴きたいと思ったら、これよりも写真左にある『バーント・ウィーニー・サンドイッチ』を先に聴いておいた方がよい。これも解散後に出たもので蔵出してきなアルバムだが、最初と最後だけドゥーワップのヴォーカル曲で、あとはインストゥルメンタルが続き、フュージョンっぽくて聴きやすい。

もう言うまでもないけど、俺は『いたち野郎』大好き。ネオン・パークスによるジャケットも強烈だし、収録されている曲も最高。そして『いたち野郎』という邦題を付けた人のセンスまでもリスペクトしたい。ザッパに興味を持ったらとにかく聴け!だけどアルバム10枚ぐらい聴いてからにしておけ!