Nara Leao / Vento De Maio(左)
Nara Leao / Os Meus Amigos Sao Un Barato(右)
ユニバーサル・ミュージックで展開している1000円CDシリーズ、いまは去年もやって好評だった「ブラジル1000」。ブラジル音楽の数々が1000円という価格での再発シリーズだ。俺は4月にも書いたけど、ナラ・レオンを聴きまくっていて、これはチャンスとばかりに早速2枚購入した。それが写真の『五月の風(Vento De Maio)』と『ナラと素晴らしき仲間たち(Os Meus Amigos Sao Un Barato)』だ。前に書いたのは彼女の1stアルバムで、その時には「ボサノヴァのイメージを持っているならこのアルバムは避けた方がいい」と書いた。しかし上の2枚もボサノヴァではないが、これは初心者にオススメできる十分な内容である。
■『五月の風』(写真左)
『五月の風』は1967年にリリースされた彼女の6枚目のアルバム。ナラは俗にいうお嬢様として育ってきて、10代でギターを習ってからは彼女の家には若いミュージシャンが出入りするようになり、それがいつしかボサ・ノヴァの誕生に繋がるものであった。しかしナラはボサノヴァと決別し、彼女よりも低下層の人々のサンバや、当時の流行歌的なサンバ・カンサゥンなどを支持し始めた。そしてデビュー・アルバムでもボサノヴァを歌うことを嫌がってプロデューサーと意見が合わないなど、プロのミュージシャンとしてのスタートは「反ボサノヴァ」だったわけだ。そういうアルバムを連発していく中で、もちろんこの『五月の風』もボサ・ノヴァのアルバムではない。
収録された12曲のうち、4曲をシコ・ブアルキによるもので、特に冒頭のサンバ”Quem Te Viu Quem Te Ve”は掴みとしても最高の曲だと思う。3曲目の”Noites Dos Mascarados”(デュエットしているのはジルベルト・ジル)も秀逸。ナラはシコの楽曲を2つぐらい前のアルバムから取り上げるようになって、お気に入りの作曲家だったようだ。この2曲のためだけに買っても損はないのに、他の曲も良くて、アルバムのバランスも大変良いと思う。
■『ナラと素晴らしき仲間たち』(写真右)
『五月の風』の後、ナラはカエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジルらが提唱する「トロピカリア」に急接近する。この「トロピカリア」については今度改めて書くつもりでいるが、このムーヴメントで政治的な糾弾が多くなって、当時のブラジル軍事政権から目をつけられる。結果、カエターノ、ジルベルトはロンドンへ、そしてナラはパリへと亡命をした。これが1969年のこと。ナラは1971年に『美しきボサノヴァのミューズ(Dezanos Depois)』で初めてボサノヴァを録音。帰国後はしばらく子育てで音楽とは離れていたようで(その間に1枚リリースしているが持っていないのでここでは割愛)、本格的に音楽に復帰するのが1977年リリースの『ナラと素晴らしき仲間たち』ということになる。
これはナラがそれまで関わってきたミュージシャンをゲストに迎え、共演しているというもので、収録されている11曲は順番にジルベルト・ジル、カエターノ・ヴェローゾ、エラズモ・カルロス、ドミンギョース、エドゥ・ロボ、ネルソン・ルフィーノ、シコ・ブアルキ、ジョアン・ドナード、ホベルト・メネスカル、カルロス・リラ、そしてアントニオ・カルロス・ジョビン。これだけの大物を集められるなんてさすがとしか言いようがない。ちなみにナラにギターを教えたのはホベルト・メネスカル(と、カルロス・リラ)で、ナラがまだ10歳の時だったそうだ。
どの曲も聴きやすくて、デュエットもとても心地よいものばかり。パリに亡命する前のプロテスト・ソングの歌手という印象が無くなっているのが特徴だろうか。1曲目は「サラ、サラ、サラ、サララ」と口ずさみたくなるし、2曲目のカエターノの”Odara”は本人のバージョンとはアレンジが違って面白いし、3曲目は結構気に入っている。以降の曲ももちろんオススメ。初めて聴くのにいいかもしれない。
この「ブラジル1000」シリーズでのナラの他のアルバムもリリースされているが、パリ亡命前のアルバムは『五月の風』と『リンドネイア』だけである。やっぱりナラにはボサノヴァ歌手のイメージの方が強いのかもしれないね。もし興味があれば今回紹介した2枚をオススメします。期間限定で1000円だから買いですよ。