ビートルズの(リリース順としては)最後のアルバムとなった『レット・イット・ビー』がリリースされてから50年経ち、本来なら昨年出たであろうスーパー・デラックス・エディションが10/15に世界同時発売された。長らく待ちわびたよ。
今回のスーパー・デラックス・エディションは5CD+Blu-rayという構成で、厚めのブックレットが付いている。そして外枠は4人の顔写真のところがくり抜かれている。サイズ感としてはホワイト・アルバムのスーパー・デラックス・エディションと同じぐらいかな。
というわけで、5枚のディスクについて紹介する。
ディスク1:New Mix of Original Album
- Two Of Us
- Dig a Pony
- Across The Universe
- I Me Mine
- Dig It
- Let It Be
- Maggie Mae
- I’ve Got a Feeling
- One After 909
- The Long And Winding Road
- For You Blue
- Get Back
ディスク1はアルバム『レット・イット・ビー』のニュー・ミックスで、今回のために新たにミックスされたもの。2009年のリマスター版と聴き比べてみると、今回の方が音が柔らかくなったように聴こえる。
それは1曲目の”Two Of Us” のイントロのアコギでわかるし、”I Me Mine” のイントロを聴いても感じる。とはいっても、普通に聴いていたら2009年版との違いは気にならないと思う。まだそんなに比較するほど何度も聴いていないので、どちらが良いとかは決められないし、これは好みによるだろう。
「レコード・コレクターズ11月号」の特集を読んだ方が参考になるかもしれない。
ディスク2:Get Back – Apple Sessions
- Morning Camera (Speech) / Two Of Us (Take 4)
- Maggie Mae / Fancy My Chances With You
- Can You Dig It?
- I Don’t Know Why I’m Moaning (Speech)
- For You Blue (Take 4)
- Let It Be / Please Please Me / Let It Be (Take 10)
- I’ve Got a Feeling (Take 10)
- Dig a Pony (Take 14)
- Get Back (Take 19)
- Like Making An Album? (Speech)
- One After 909 (Take 3)
- Don’t Let Me Down (First Rooftop Performance)
- The Long And Winding Road (Take 19)
- Wake Up Little Susie / I Me Mine (Take 11)
ディスク2と3は「ゲット・バック・セッション」から選りすぐったもので、このディスク2はセッションの後半、アップル・スタジオに移った1969年1月後半のものが多く収録されている。
ほとんどがアルバム収録曲のアウトテイク的なもので、ブートレグではCD約90枚にも及ぶこのセッションの音源から抽出するのも大変だっただろうと思うのと同時に、それがCD2枚分(しかも収録時間がLP並み)しか無いのはちょっと残念な気もする。各CD70分ぐらいのを3枚は欲しかったなとは思う。
しかし聴いてみて思うのは、セッション音源2枚でもいいかな・・・だった。大量に音源があっても、ひたすら同じ曲を繰り返している場合も多いので、そのなかか選りすぐったのだろう。
ディスク3:Get Back – Rehearsals and Apple Jams
- On The Day Shift Now (Speech) / All Things Must Pass (Rehearsals)
- Concentrate On The Sound
- Gimme Some Truth (Rehearsal)
- I Me Mine (Rehearsal)
- She Came In Through The Bathroom Window (Rehearsal)
- Polythene Pam (Rehearsal)
- Octopus’s Garden (Rehearsal)
- Oh! Darling (Jam)
- Get Back (Take 8)
- The Walk (Jam)
- Without a Song (Jam -Billy Preston with John and Ringo)
- Something (Rehearsal)
- Let It Be (Take 28)
こちらにはトゥイッケナム・スタジオでのセッション初期の頃の音源もいくつかみられる。最初の “All Things Must Pass”なんて、1969年1月3日のものなんじゃないだろうか。他にはジョンの”Gimme Some Truth” も初期の頃かと。
後に『アビー・ロード』に収録される曲が大半を占めている中で、変わったところだとビリー・プレストンがジョンとリンゴと繰り広げる”Without a Song” が収録されている。ブックレットの日本語訳だと1月28日の録音のように書かれているが、俺が持っているゲット・バック・セッションの音源にはこのタイトルが無いので新たな発掘音源かと思ったけど、どうやら “A/B Road Vol.17″の ディスク4に入っている “Unless He Has a Song” というタイトルがそれだった。
なお、俺はディスク2も3が、例えば『アンソロジー』と重複しているのがあるのではとか、『レット・イット・ビー・ネイキッド』のディスク2に含まれている音源もあるんじゃないかとかについてはまだ調べていない。それは別の機会にしようかなと、いまは思っている。
ディスク4:Get Back LP – 1969 Glyn Johns Mix
- One After 909
- I’m Ready (aka Rocker) / Save The Last Dance For Me / Don’t Let Me Down
- Don’t Let Me Down
- Dig a Pony
- I’ve Got a Feeling
- Get Back
- For You Blue
- Teddy Boy
- Two Of Us
- Maggie Mae
- Dig It
- Let It Be
- The Long And Winding Road
- Get Back (Reprise)
そしてディスク4、俺はこのディスクこそがこのボックスの目玉だと思っている。グリン・ジョンズがまとめ上げた『ゲット・バック』、これがついに正式にリリースされたのだから。
もともとはこれがゲット・バック・セッションの成果であり、本来の「ありのままの姿」を捉えたアルバムとして作られたのだけど、メンバーたちから拒否されてしまい、グリン・ジョンズは1970年にも2nd Mixを作るがそれも却下。放っておかれた挙句にフィル・スペクターによって『レット・イット・ビー』となってしまったのは、いまさら説明するまでもないことなんじゃないかと思う。
この『ゲット・バック』はブートレグで入手可能だし、ちょっとマニアなビートルズ好きであればみんな聴いていると思う。とはいえ、正規にリリースされたというのだから嬉しい。
レコード・コレクターズの特集内での対談にもあったが、グリン・ジョンズの仕事が認められるまでに50年かかったということなんだよね。彼が存命のうちにリリースされて良かったよホント。
で、『ゲット・バック』は確かに当時リリースされなくて良かったよなって思うのですよ。なんてったって、これがビートルズなのと言いたくなるぐらいの代物だもんね。ゲット・バック・セッションをひたすら聴いているとなおさらそう思う。とはいえ俺はこの粗さが好きなんだけど。そうなると、ジョンやジョージじゃないけど、フィル・スペクターの仕事が改めて素晴らしいものだと思うんだよね。
ディスク5:Let It Be EP
- Across The Universe (Unreleased Glyn Johns 1970 Mix)
- I Me Mine (Unreleased Glyn Johns 1970 Mix)
- Don’t Let Me Down (New Mix of Original Single Version)
- Let It Be (New Mix of Original Single Version)
ディスク5は4曲入りのEP扱いで、注目すべきは最初の2曲。これはグリン・ジョンズが2度目の『ゲット・バック』を編集した際に、最初の盤から”Teddy Boy” を外して、代わりに入れたのがこの2曲だったのだけど、これも却下されたために、幻のアルバムと化してしまったわけだ。つまりグリン・ジョンズがミックスしたテイクはすべて公式にリリースされたというわけなんだよね。何度でも言うけど、これは快挙。
そしてあとの2曲はシングル・バージョンのニュー・ミックスってことですね。
ディスク6:Blu-ray
ディスク6には、ドルビー・アトモス、DTS-HDマスターオーディオ5.1、そしてハイレゾ・ステレオの音源が収録されている。いまは再生できる機器が無いので未聴。
以上が、『レット・イット・ビー』の50周年記念スーパー・デラックス・エディションとなる。ゲット・バック・セッションのブートレグは1969年1月2日から1月31日までの20日分ぐらい、CDにして約90枚の量の音源があるが、そこから作られた音源はグリン・ジョンズによって2種類のLPがボツになり、当初のコンセプトのひとつである「オーバーダブをしない」に逆らったフィル・スペクターによるLPがビートルズ最後のアルバムとしてリリースされたってのは、その辺のストーリーを知れば知るほど複雑な思いがよぎるが、ビートルズのドキュメンタリーとしては最高に面白いと個人的には思っている。
そして映画『レット・イット・ビー』は正規にリリースされることなく、新たな編集により『ゲット・バック』として11月にディズニープラスで先行公開されることになっている。中学生の頃に深夜のテレビで『レット・イット・ビー』を見た時にはとても陰悪な雰囲気な場面ばかりが印象に残ったが、実際はそれほどでもないようなことが近年は語られていて、それはきっと『ゲット・バック』で正しく描かれているのだろうと期待している。