プリンス『ブラック・アルバム』にまつわる思い出

ブラック・アルバム(アナログ)
01. Le Grind
02. Cindy C
03. Dead on It
04. When 2 R in Love
05. Bob George
06. Superfunkycalifragisexy
07. 2 Nigs United 4 West Compton
08. Rockhard in a Funky Place
写真は正規リリースのアナログ。
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プリンスは『1999』をリリースした82年頃にはすでに、未発表の曲が300も400もあると言われていた。だからブートレグも数え切れないほどある。

確か1987年ごろ、プリンスの新譜は『ブラック・アルバム』というタイトルでリリースされるという情報が。俺も雑誌で読んだ記憶がある。しかし、突如それは発売中止となる。世界各国のワーナー(レーベルの事だ)へマスターテープも届けられたというのに、プリンスの一声で急遽オクラ入り。その代わりに出たのが『LOVESEXY』だった。マスターテープまで出回ったのだから、中止となってすぐにブートレグとして裏の世界で出回った。

俺は最初はそれほど興味がなかったが、(プリンスへの興味が薄れていた頃)当時同じ学校に行ってた奴がどうしても聴きたいと言っていて、そいつよりも絶対先に聴く!と俺は決めた。そいつは一応ドラムを叩く奴だったが、「ノリがよければ何でもいい」というミーハーな男だった。そんな理由で音楽の良し悪しを決めるような奴と、俺が音楽的に気が合うわけが無い。でも俺のポップミュージックが好きな部分があったから、そいつとはなんとなく上手くやっていけた。

俺は西新宿はVINYLへ出向き、ロッキング・オンか何かの広告で見た数ある『ブラック・アルバム』のブートの中でも、最初にリリースされたと言われていたアナログを3800円ぐらいで買った。もうその頃はブートレグが何たるかを知っていたから、音が悪いのは何とも思わなかったが、それでも当時は音が良いと思えるほどのものだった。そりゃそうだ、マスターテープが出回ってるんだから、何度目かのダビング物だったのだろう。そんなことはどうでも良かった。醒めかかっていた気持ちが嘘のように、この音の悪いブートを何度も何度も聴いた。今じゃ最高傑作と言われる『サイン・オブ・ザ・タイムス』よりも、何倍も良い!これぞファンキーなブラックミュージック。

しかし何故プリンスはこれを発売中止にしたのだろう?それは後にロッキング・オンに掲載された。と言ってもインタビューでもなければ、記事は外国のものを翻訳したものだった。『パープル・レイン』以降、次々とヒットを放つプリンスに、一部のメディアは「ファンキーじゃなくなった」と批判。それを真にうけたプリンスは憤慨した。「俺がファンキーじゃないだと!ふざけた事書きやがって。俺が本気を出せば世界一ファンキーなレコードなんて何枚でも作れるんだ!」とか、そんな気持ちを彼はスプーキー・エレクトリックという別人格に置き換えて説明。これはプリンスのネガティヴな人格を表すときに使うキャラクターみたいなもの。

そして、出来上がった『ブラック・アルバム』を前に、冷静になった彼は怒りに任せてレコードを作ったことを恥じた。このデリケートな人格をカミールという別人格で表現。確かそんな感じだった。プリンスの闇の部分が思い切り出てしまったアルバムだって訳だ。だから今でもゴツゴツした黒さみたいなのを一番強く感じる。

俺はある時、このレコードをテープに落として奴にあげた。カセットレーベルを黒一色のものにして、黒インク(タイプライターだったから当然黒だ)で曲目を打ち、非常に読みにくいというか、読めなくした。奴は「何これ?」と言ったが、俺が色でわからねえかと言うとすぐに気が付いたようで「買ったの?」と興奮していた。そう、俺が先に聴いたって訳だ。

ロッキング・オンの記事も読ませたが、自分の多面性を別人格で表現するなんていう術をしらないであろう(きっと今もそうだと思う)奴は、わかったような分からなかったような中途半端な反応だった。

それから数年、90年代半ばに突如『ブラック・アルバム』は正式リリースされた。これにはさすがに驚いて、何年かぶりに奴に電話をかけた。奴は「発売して欲しくなかったよ。高い金だして海賊盤買ったのに」と言っていた。そういえば、俺があげたテープでは満足できなかったみたいで、CDのブートレグを買ったと言ってたっけ。そんなことはどうでも良かったから話半分で当時は聞いていたけど。たぶん奴とはこれが最後の会話だったと思う。

学生のときから付き合っていた女と近々結婚するとか言ってた。披露宴か2次会に誘われたから「考えておくよ」と答えた。その頃、俺はオリジナル・ラヴとピチカート・ファイヴを聴きだしたころで、それを言うと「オマエそんなの聴いてるの?落ちぶれたな」と抜かしやがった。ノリだけで聴いてるような奴にそんなこと言われたくはない。当然、披露宴だか2次会には行かなかった。行くわけねえだろ。

以上、ブラック・アルバムにまつわる思い出話でした。
※かつてmixiの日記に載せていたものを再掲載

コメント

  1. P_Control より:


    初めまして。
    Black Albumのブートレッグが急に懐かしくなり、そのジャケット写真を探していて辿り着きました。
    高校時代に血眼になって探して、どこも品切れという状態で、ようやくVinylでダビングカセットテープ(500円)を購入。
    その後、アナログを3800円、CDを4800円で購入しました。
    あの頃はとにかく問題作”BOB GEORGE”が聴きたくてたまりませんでした。
    LOVESEXYも悪くありませんが(いやとてもいいのですが)、あの当時に普通にリリースされていたら、少なからずプリンスの歴史は変わっていたのではないかと思います。
    では、失礼致しました。

  2. hiroumi より:


    P_Controlさん
    どうも、コメント残していってくれてありがとうございます。
    確かあの当時は発売中止〜ブートレグの間隔が結構短かったと
    記憶しています。当時のロッキング・オンにVinylの広告があって、
    早々に入荷していたような。
    まだCDプレーヤーを持っていなかったので(笑)、
    アナログを買いましたが、あのころはそれでも音が十分良いと
    思ったものです。
    普通にリリースされていたらプリンスの歴史が変わっていたという
    ご意見は同感です。
    なんで”LOVESEXY”なんだろう・・って脱力感もあったような。
    しかも意地悪してワントラックだったしw

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