ソニック・ユース “Daydream Nation”を聴いた日のこと

Sonic Youth / Daydream Nation
Sonic Youth / Daydream Nation

ソニック・ユース、1988年発表のインディーズ時代最後のアルバム”Daydream Nation”。今では彼らの最高傑作との評価がされていることが多い。しかしこのアルバムとリリース当時にリアルタイムで聴いた人となるとそう多くないと思う。なぜなら当時はまだ日本では無名に等しかったからだ。

1988年のある日、当時読んでいた音楽雑誌「クロスビート」の輸入盤レビューにこのアルバムがちょっとだけ載っていた。そのレビューの何に惹かれたのかわからないが、なんとなく興味を持った。その当時は輸入盤を欲しいと思ったら、都心のレコード屋へ行けばわりと簡単に手に入れることができた。池袋だったらWaveやパルコにあった山野楽器、新宿であればディスク・ユニオンやCisco、その他もろもろあった。だけどいつも見ていたのは王道の60年代70年代ロックで、このアルバムのようなインティーズのものはどうやって見つけたらいいのかよく分からなかった。

西新宿に「UK EDISON」という店があった。そこでは主に日本のインディーズのレコードを漁りに行ってたのだが、そこで”Daydream Nation”のジャケットが目に飛び込んできた。そう、この店では海外のインディーズモノも扱っていたからね。しかもアナログ2枚組にも関わらず2000円という破格の値段(当時輸入盤で2枚組といったら3000円前後だったと思う)。こんな機会はないと思い、勢いでアルバムを買った。しかしこの時ほど、新しいレコードを買った時の「ワクワク感」と「不安感」が入り混じったことはなかったと思う。前者はもちろん、楽しみだなと思う気持ちだが、後者は今みたいにネットで確認とか、店頭で試聴なんてことは無く、ましてや当時ラジオでもこの「無名」のバンドの曲は聴いたことがない。しかも2枚組、失敗しませんようにというなんとも言えない気持ちだった。

Sonic Youth / Daydream Nation
※LPとCDではインナーの写真が違う

Sonic Youth / Daydream Nation
※盤面には曲の演奏時間が書いていない(ジャケット内にも)

封を切ってレコードを取り出す。ジャケットを開いて初めてメンバーの写真を見る。レコードを取り出すと曲の演奏時間が表記されていないじゃないか!何分テープに録音すべきか考える。2枚組だけど片面3曲ずつ・・・悩ましいけど90分テープに録音してみるが、かなり余ったので80分テープに録音しなおす。そして全体の印象としては、どこか物足りなさを感じたのと、曲を無理やり延ばしている感(A面3曲目、B面3曲目)がマイナス点だった。でもせっかく買ったレコード、そして未知のバンドだったこともあって何度も聴いて損をしないようになんて思いながら聴いていた。

そのすぐ後のクロスビートの輸入盤レビューに、今度は”Ciccone Youth”なるグループのレコードがレビューされていた。書いてあることは一体何を言いたいのかさっぱり分からなくて、辛うじてソニック・ユースと関連があるものだとわかった。そして今度はこのレコードを新宿アルタ8FだったかにあったCiscoで購入。このジャケのどアップと「シコーン」って名前は間違いなくマドンナの事だろうなんて思っていた。このレコードは不思議な感じがした。俗にいう「実験的」なもので、現代音楽風だったり、ラップあり、なぜかノイ(Neu!)を聴いている風景だったり、マドンナやロバート・パーマーのカバーがあったりして非常に面白い。購入するときには「ソニック・ユースの変名バンド」というのは分かっていて、俺はソニック・ユースよりもこっちのほうが断然面白いと思った。

Ciccone Youth / The Whitey Album
Ciccone Youth / The Whitey Album

そしてその2年後、彼らはゲフィン・レコードに移籍し、メジャー・レーベル第1弾の”Goo”をリリース。このアルバムをきっかけに俺は本格的にソニック・ユースにはまり始めていった・・・。

レコードを買って、ワクワクするよりも不安感のほうが大きかったのは後にも先にもこの時がいちばんだったと思う。いまの感覚からすると大げさなと思われるかもしれないが、何の情報もなく、良いのか悪いのか分からない、どんな音が入っているのかも分からない。しかもアメリカのメジャーなレーベルではなく、どこぞのインディー・レーベルからのリリース。いまだったらきっと「試聴してから買うか決める」なんて言い草が出てきそうだけど、俺は今でも「試聴=買うつもりはないモノ」という前提でいる。いや、もちろんたまたま聴いていいと思って「買う」ことはあるけど、興味のあるアルバムを買うか買わないかを決めるのに「試聴してから」ということはない(このニュアンス、わかるかな)。

話は飛躍するけど、俺がApple MusicやAWAといったストリーミングのサービスに興味が湧かない理由も、つまりはそういうことなんじゃないかと思った。自分が所有していないレコードやCDをストリーミングで聴くって、つまりは試聴みたいなものにすぎないからだ。「ソニック・ユースは聴いたことがないからちょうどいいや、ちょっと聴いてみようか」なんて、そんなんで良い悪い、好き嫌いを判断されてもねって思っちゃう俺は相変わらず古い人間ですね。しかし自分が所有しているレコード、CD、音源だってまともに全部聴けてないから、ストリーミングまでも手を回していられません。

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